麻酔科

獣医師紹介

後藤 瞬

【学歴】
東京農工大学農学部獣医学科卒
麻酔ブートキャンプ2014修了
IVAPM所属(INTERNATIONAL VETERINARY ACADEMY OF PAIN MANAGEMENT)

【専門分野】
麻酔・周術期管理・集中治療
内科

動物の手術では多くの場合、全身麻酔が必要となります。 手術で起こる強い痛みや身体的な負担を軽減するためには麻酔は不可欠です。
しかし、多くの飼い主様は動物に麻酔をかけることに抵抗感があるかと思います。
当院では動物の痛みのケアを行い、安全で安心できる手術を行うための最善の麻酔を心がけています。

麻酔科の3つの柱

1 より安全で安心できる麻酔
麻酔のリスクを正しく判断し、的確な麻酔を行います。
2 より痛みの少ない手術
手術前・手術中・手術後に絶え間ない痛みのケアを行います。
3 より早い手術からの回復
手術からの回復を促進するためのケアを行います。

1.より安全で安心できる麻酔

 動物の麻酔の際に最も重要なことは動物の安全を守ることです。しかし、残念ながら現時点では”100%安全な麻酔”は存在しません。動物では健康な犬で0.05%(2000頭に1頭)、猫で0.1%(1000頭に1頭)の確率で麻酔事故が起こっています。(David et al. 2008)
 そこで、当院は麻酔事故の発生率を少しでも0%に近づけるために、動物にとって安全で優しい手術を行うために、1頭1頭にそれぞれの麻酔・手術計画を立てています。

一般的な麻酔・手術の流れ

①術前検査、および麻酔・手術計画の作成
 麻酔・手術にあたってのリスク要因があるかどうか、もしあるのであれば、どの程度のリスクなのかを調べ、その問題点にどう対処するか検討します。
 当院ではすべての動物に、術前検査として一般身体検査(問診・視診・触診・聴診など)、血液検査、胸部レントゲン検査を実施しています。また、手術までに心臓や腎臓、肝臓などに異常を抱えていた場合は超音波検査や腹部レントゲン検査を行い、血液検査と合わせて各種臓器の状態を確認します。
 麻酔リスクはASA分類という分類法に基づき、I~Vに分類され、そのリスクに応じて使う薬剤や麻酔方法を決定します。

②術前処置
手術前には血液検査の結果に応じて点滴を行い、目に見えない脱水まで十分に補正し手術を行います。また、手術時の感染を防ぐために抗生物質を投与したり、効果を得るまでに時間のかかる鎮痛薬などを事前に投与したりします。

③麻酔導入
 麻酔をスムーズに行うため、鎮静薬などを用いて動物が落ち着いた状態になってから、麻酔を開始します。麻酔開始時には作用する時間の短い静脈麻酔薬を用いて、意識を消失させ、気管チューブを挿入し、呼吸ルートをしっかりと確保します。

④麻酔維持・手術
 長時間の麻酔の場合、人医療でも用いられる安全性の高いガス麻酔で手術を進めます。状況に応じて鎮痛薬を持続定量点滴(CRI)し、絶え間ない痛みのケアを行います。また、痛みのケアを十分に行うことは麻酔薬の量を減らすことにつながり、麻酔の安全性を高めることができます。手術中は心拍数や血圧、体温、呼吸数などのバイタルサインをモニターで常に監視、また、獣医師・スタッフが聴診・触診・視診を行うことで,異常に対して即座に対応しています。

⑤覚醒
 手術が終了し、麻酔から覚めることを覚醒と呼びます。動物は麻酔からの覚醒とともに痛みを感じ、周囲の状況が異なること、見慣れない人に囲まれていることを理解し、不安を感じ始めます。手術中~手術終了時にしっかりとした痛みや不安に対するケアを行うことで、穏やかに覚醒することができます。

⑥術後管理
 手術後にも細やかなケアを行い、なるべく早期退院ができるよう入院管理を行っております。

2.より痛みの少ない手術

動物も麻酔により意識を失っていても、手術に伴って痛みを感じています。手術中に起こった痛みは麻酔からの覚醒とともに強い痛みとして現れます。 “痛み”の存在は動物が手術から回復することを妨げます。動物にとって負担が少なくなるように、動物が手術から早く回復するために手術前・手術中・手術後にしっかりと痛みのケアを行うことが重要です。また、手術中に痛みのケアを行うことでより安全な麻酔を行うことができます。

痛みのコントロールのポイント

マルチモーダル鎮痛

動物が“痛い“と感じるには、
①痛みの刺激→②痛みの伝達→③痛みの増幅→④痛みの認知
という、4つのステップがあります。このステップそれぞれに対して鎮痛薬を用いることで、より効果的に痛みをケアすることができます。

先取り鎮痛

 動物が痛みを感じ続けると、痛覚過敏・アロディニアという状態になり、痛みが増幅されます。痛覚過敏とは、痛みを感じ続けると同じ刺激でもより痛い、痛みに対して過敏状態になることを言います。一方アロディニアとは、痛みを感じないような刺激でも痛みを感じてしまう状態になることを言います。この痛覚過敏・アロディニアという状態を避けるためには、痛みを感じる前、つまり手術前から痛みのケアを行うことが重要です。

痛みのケアの方法

痛みのケアにも様々な方法があります。

①鎮痛薬の注射
 最も一般的な方法で、薬剤を皮下や筋肉、静脈内に注射することによって鎮痛薬を投与します。
 様々な種類の薬剤を用いることができます。

②鎮痛薬の持続定量点滴(CRI)
 微量点滴器を用いて、正確に一定速度で鎮痛薬を投与します。痛みの状況に応じて投与量を細かく調節できるため、痛みの強い手術では常用しています。オピオイドやNMDA受容体拮抗薬などを用います。

③硬膜外鎮痛
 脊髄の外側の硬膜外腔の部分に麻酔・鎮痛薬を投与することによって脊髄での痛みの伝達・痛みの増幅を抑制することができます。脊髄に直接薬を届けることが可能であり、全身に注射するよりも少ない薬の量で痛みのコントロールができるため、副作用が低減できます。

④局所神経ブロック
 手術を行うその部分の神経に直接麻酔薬を投与することにより、痛みの伝達をしっかりと防ぐことができます。  神経刺激装置や超音波診断装置を用いて、神経の位置を確認して局所麻酔薬を注射します。手術で痛みを感じる可能性のある部分の神経だけを麻酔するため,手術後の回復が非常に早く、全身への影響が小さい方法です。(実施には特殊な機器が必要となります)

⑤飲み薬による鎮痛
 手術・退院後、長期間にわたって痛みのコントロールが必要な場合、飲み薬による痛みのケアを行います。関節などの痛みのケアには非ステロイド系鎮痛薬(NSAIDs)、神経性の痛みのケアのためにはプレガバリンといった内服薬を用いて長期間のケアを行います。

3.より早い手術からの回復

 手術を正確に・素早く行うことはもちろん、手術からの回復を早めるためにも注意を払います。
 手術後3時間までは全身的な炎症反応や血液循環の変動など、体内では手術に対する様々な反応が大きく起こります。手術後にも痛みのケア、点滴による血液循環のケアを行うことで、術後の回復を促進することができます。

迅速な覚醒
・手術が終わり次第、可能な限りスムーズな覚醒が出来るように心がけます。
・手術中の麻酔薬の投与量を調整し、麻酔時間が長くならないようにします。
手術前・手術中・手術後の静脈点滴
・体液バランスを評価し、静脈点滴を行って脱水や電解質の補正を行い、体液バランスを整えて手術に臨みます。
・手術終了後には、手術によって消費したエネルギーや電解質を補充し、手術からの回復を促進します。
手術後の痛みのケア
・手術後の強い痛みは術後12-24時間にピークを迎え、術後48時間まで続きます。
・手術中のみならず、手術後の痛みのケアを行うことで、手術からの回復を早めます。
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